借地の建て替え・増改築の承諾料 借地借家法17条・18条と借地非訟の手続、目安の出どころ
借地に建つ家を建て替えたり増改築したりするとき、契約に増改築を禁じる特約があれば、地主の承諾が要ります。承諾が得られないときは、借地借家法17条にもとづき、裁判所に地主の承諾に代わる許可を申し立てられます。このとき裁判所は、承諾料にあたる財産上の給付を命じることがあります。
承諾料の額は、条文に書かれていません。目安の数字として「更地価格の3%」が語られますが、公的な基準ではなく、法律事務所の解説が判例タイムズなどの文献を引いて紹介しているものです。この記事は一般的な情報で、個別の判断は借地問題に詳しい弁護士などの専門家にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。
まず契約書の増改築の条項を読む

最初に確かめるのは、借地契約書に「増改築禁止」「増改築には賃貸人の承諾を要する」といった条項があるかどうかです。借地借家法17条2項は、「増改築を制限する旨の借地条件がある場合」を前提にしています。
条項があるときとないときの違いは、次のとおりです。
- 条項がある: 増改築に地主の承諾が要る。承諾料を求められることがある。
- 条項がない: 増改築を制限する借地条件がないので、17条2項の許可の対象になりません。ただし、新法の借地では更新後の再築に別の定め(7条・18条)があります。
契約書が見つからないときや、口頭の約束だけのときは、地主に聞く前に、更新の際の書類や地代の領収書を探します。借地権付きの建物の書類のそろえ方は査定に出す前の書類の記事に書きました。
「増改築」といっても、範囲はさまざまです。屋根や外壁の修繕、間取りの一部変更、増築、全部を壊して建て替える全面改築があります。契約書の文言が「増築」だけを禁じているのか、「建て替え」まで含むのかで、承諾が要るかが変わります。迷ったときは、図面を示して地主に相談する前に、弁護士に契約書を見てもらいます。
17条・18条・7条のちがい

借地借家法には、建物の建築に関する条文がいくつかあります。混ざりやすいので整理します。
表は左右に動かして読めます。
| 条文 | 場面 | 申し立てる人と内容 |
|---|---|---|
| 17条2項 | 増改築を制限する特約があり、通常の利用上相当な増改築で話し合いがつかない | 借地権者の申立てで、裁判所が地主の承諾に代わる許可を与える |
| 17条3項 | 17条の裁判をするとき | 当事者間の利益の衡平を図るため必要があれば、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、そのほか相当な処分をする |
| 18条 | 契約の更新の後に、残存期間を超えて存続する建物を新たに築造する | やむを得ない事情があるのに地主が承諾しないとき、借地権者の申立てで承諾に代わる許可を与える |
| 7条 | 存続期間が満了する前に建物が滅失し、残存期間を超えて存続する建物を築造する | 地主の承諾があると借地権が20年延びる。地主が通知から2か月以内に異議を述べないと承諾とみなされる(更新後の通知を除く) |
17条3項の「財産上の給付」が、いわゆる承諾料です。17条4項は、裁判所が借地権の残存期間、土地の状況、従前の経過、そのほか一切の事情を考慮するとしています。6項は、特に必要がないと認める場合を除いて、裁判の前に鑑定委員会の意見を聴くと定めています。
注意したいのは、18条です。借地借家法の附則11条は、18条を「この法律の施行前に設定された借地権」には適用しないと定めています。借地借家法は、前の借地法を廃止して置き換えた法律です(附則2条)。施行前に設定された借地権には、附則に経過措置があり、前の借地法の扱いが残る部分があります。自分の借地がいつ設定されたかを、契約書で確かめます。17条については、附則10条が、施行前にした申立てだけを「従前の例」としています。
建て替えの承諾と、借地権の期間の延びる問題が重なると、話は複雑です。更新については更新料の記事で扱っています。
承諾料の目安と、その出どころ

承諾料は、条文にも国の基準にもありません。
手がかりになるのは、弁護士法人みずほ中央法律事務所の解説です(ページの日付は2017年5月22日)。この解説は、市川太志「借地非訟事件の処理について」(判例タイムズ967号、1998年)などの文献を引いて、次のように整理しています。
- 全面改築: 原則として更地価格の3%。おおむね3〜5%の範囲に分布する。自己使用から賃貸用への変更を伴うときは3%を超える。
- 一部改築: 更地価格の1%前後が中心で、3%が上限。「3% × 増改築部分の床面積 ÷ 全体の床面積」という算定を採る裁判例も多い。
- 過去の更新料や、過去の増改築の承諾料は、算定で考慮しない考え方が一般的。
この解説の説明は、旧法(借地法)の時代の整理です。借地借家法の借地にそのまま当てはまるかは、この記事では確かめられていません。目安の数字は、あくまで話し合いの出発点として扱います。
計算の仕組みをつかむため、仮の数字で計算します。実在の事例ではありません。
- 更地価格が3,000万円の土地で全面改築: 3,000万円 × 3% = 90万円
- 延べ床面積100㎡の建物に20㎡を増築: 3% × 20 ÷ 100 = 0.6%。3,000万円 × 0.6% = 18万円
更地価格をいくらと見るかで、結論は大きく動きます。解説も、更地価格の評価で当事者が対立しやすいと指摘しています。固定資産税の評価額、路線価、不動産鑑定士の評価は、それぞれ水準が違います。数字を出されたら、どの評価によるかを聞きます。
東京地方裁判所民事第22部の借地非訟のQ&A(増改築許可の申立てに関するもの)には、別の指摘があります。借地条件変更の申立てに増改築許可の申立てを加える運用が2015年4月1日から始まったことについて、「従前の条件変更承諾料には増改築承諾料も含まれていたと考えられるので、これまでと承諾料の総額は変わりません」と書いています。ただし、個々の裁判官の判断事項なので、事案によって異なる判断がされることもあるとしています。
譲渡の承諾料の考え方は譲渡承諾料の記事にまとめています。建て替えの承諾料と譲渡の承諾料は、別の話です。
借地非訟の手続 東京地方裁判所の案内から

話し合いで決まらないときの手続きは、東京地方裁判所民事第22部の案内に詳しく書かれています。東京23区と島しょ部の借地を扱う部です。ほかの地域は、借地のある地方裁判所の案内で確かめてください。
- 申立て先: 借地の所在地を管轄する地方裁判所。当事者の合意があれば簡易裁判所にも申し立てられる。
- 申立書: 裁判所用の正本1通と、相手方の人数分の副本。代理人は弁護士に限られる。
- 添付書類: 土地・建物の固定資産評価証明書、現場の住宅地図、賃貸借契約書などの証拠。
- 費用: 申立手数料(収入印紙)と予納郵便切手。増改築許可の申立ての手数料は、固定資産評価額÷10×3÷2(土地の一部のときは面積の割合を掛ける)を基にして算定する、と案内にある。予納郵便切手は相手方1名で6,000円。1名増えるごとに1,000円を加える。
- 審理: 申立てのおよそ1か月から1か月半後に第1回の審問期日。審問は非公開。
- 鑑定委員会: 弁護士、不動産鑑定士、建築士を含む有識者から3人以上が指定される。現地調査をして意見書を出す。鑑定委員の費用は国が負担し、当事者の負担はない。
- 終わり方: 取下げ、和解、調停、決定。決定に不服があれば、決定書の送達から2週間以内に即時抗告できる。
手数料の額の求め方は、東京地裁のページの「費用」で確かめてください。印紙の額は、基になる額ごとに表で決まっています。
東京地裁の案内は、増改築制限の特約がある場合に、借地条件変更の申立てに加えて増改築許可の申立ても必要になる(2015年4月1日以降)としています。同じQ&Aは、借地条件変更の申立てに増改築許可の申立てを加えるときの手数料は、借地条件変更の分を納めれば足りると答えています。申立書の書式は東京地裁のホームページにあります。
決定までの期間は、案内に通しの目安がありません。鑑定委員会の現地調査が審問期日の約1か月半後、意見書のあとの審問が1か月から1か月半後と書かれているので、数か月単位の手続きになります。建て替えの計画は、余裕をもって立てます。
話し合いで決めるときの進め方

裁判所に申し立てる前に、地主と話し合うのが先です。話し合いで決める場合の準備を挙げます。
- 計画の範囲を決める。建て替えか、増築か、改築か。図面と、床面積の変化を示す。
- 契約書の該当条項と、これまでの承諾の経緯(過去の増改築の有無)を確かめる。
- 承諾料の額と、払う時期を決める。目安の数字を出すときは、出どころを添える。
- 承諾の内容を書面にする。承諾の範囲、承諾料、地代や期間を変えるかどうかを書く。
- 書面に署名・押印をもらってから、工事の契約をする。
承諾の書面には、建物の工事の範囲を図面で示すと、あとで食い違いが起きにくくなります。地代の改定や期間の延長といった条件を一緒に求められることもあります。この場合は、承諾料と条件を合わせて、全体で判断します。
地主が代わって話が通じないとき、地代の滞納がありそうなときなど、事情があるときは弁護士に早めに相談します。地主が交代した場合は地主が変わったときの記事に確認点があります。借地権そのものを売る場合の承諾は借地権を売るときの記事で扱いました。
出典
- 借地借家法(平成3年法律第90号)7条・17条・18条・附則 e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090
- 東京地方裁判所民事第22部「借地非訟事件の手続の概要」 https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minji-section22/minji-section22-2/index.html
- 東京地方裁判所民事第22部「費用」 https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minji-section22/minji-section22-3/index.html
- 東京地方裁判所民事第22部 借地非訟のQ&A(増改築許可の申立てに関するもの) https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/file/Minji.22.QandA.pdf
- 弁護士法人みずほ中央法律事務所「増改築許可の承諾料の目安」(2017年5月22日) https://www.mc-law.jp/fudousan/25842/
いずれも2026年11月4日に確認しました。承諾料の数字は、法律事務所の解説が文献を引いて紹介するもので、裁判所や国の公表した基準ではありません。